J・L・ボルヘス
伝奇集
ガイド
書誌
author | J・L・ボルヘス |
editor | 鼓直(訳) |
publisher | 岩波文庫 |
year | 1993 |
price | 520 |
isbn | 0-327921-2 |
履歴
editor | 唯野 |
2001.7.2 | 読了 |
2001.7.2 | 公開 |
2002.8.20 | 修正 |
2012.1.18 | タグ追加 |
2020.2.25 | 文字化け修正 |
有名な「バベルの図書館」を含んだアルゼンチンの作家、ホルヘ・ルイス・ボルヘス(1899-1986)の作品集。私はてっきり「バベルの図書館」が有名なものだから、独立した長編か何かのタイトルだとばかり思い込んでいたのだが、実は「八岐(やまた)の園」という連作の中の一短編であることを、この本をパラパラとめくっていて気付いた次第だった。(本書には他に「工匠集」とが収められており、プロローグを含んだ 19 編を以て伝奇集としている。)
一読しての感想は「非常に独創的な世界だな」ということで、「バベルの図書館」にしてもそうなのだが、夢と現実、永遠・無限なんていう言葉の似合う物語が多く収められている。冒頭の「トレーン、ウクバール、オルビス・テルティウス」からして「こんなタイプの摩訶不思議さは初めてだ !」という印象を免れない作品になっていて、これは他でも同様である。個人的におもしろかったのは他者の見る夢の造形物を扱う「円環の廃墟」(これが最もよかった)、既に取り上げた「バベルの図書館」、細部の記憶する人を描く「記憶の人、フネス」、語り手の入替が妙を出す「刀の形」、人殺しを扱った「結末」、決闘の受け入れの過程が読者を惹きつける「南部」などだった。
一方で、著者の特徴のひとつを示すとされる探偵小説的なもの――「死とコンパス」など――は、今ひとつ私には訴えかける部分を欠く印象だった。ボルヘス自身、少年時代から本漬けの生活を送ったらしく、後に図書館員、更には国立図書館長などを歴任しているところからも、余計な説明は不要だろう。その結果として視力を失ったのも有名である。そういう造詣の深さと物語への思い入れが作品へも反映されているのは確かで、それがやはり、物語の読み応えとしても伝わってきているように思った。
抄録
108-109
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また彼は、すべての旅行者が確認するに至ったある事実を指摘した。広大な図書館に、おなじ本は二冊ない。彼はこの反論の余地のない前提から、図書館は全体的なもので、その書棚は二十数個の記号のあらゆる可能な組み合わせ――その数はきわめて厖大であるが無限ではない――を、換言すれば、あらゆる言語で表現可能なもののいっさいをふくんでいると推論した。いっさいとは、未来の詳細な歴史、熾(し)天使らの自伝、図書館の信頼すべきカタログ、何千何万もの虚偽のカタログ、これらのカタログの虚偽性の証明、真実のカタログの虚偽性の証明、パシリデスのグノーシス派の福音書、この福音書の注解、この福音書の注解の注解、あなたの死の真実の記述、それぞれの本のあらゆる言語への翻訳、それぞれの本のあらゆる本のなかへの挿入、などである。