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高村薫
作家的覚書

ガイド

書誌

author高村薫
publisher岩波新書
year2017
price780+tax
isbn978-4-00-431656-5

目次

1本文
2抄録

履歴

editor唯野
2025.6.30読了
2025.6.30公開

主に2014~2016年に『図書』で掲載された文章などをまとめたもの。『作家的時評集 2000-2007』『閑人生生 2007-2009』『作家的時評集 2008-2013』『続 閑人生生 2009-2011』に連なるものである。

巻末には講演も含まれているが、特に松本市での講演は筆者が上述の書籍で述べてきたことを全体としてまとめている感があり、これが最も読み応えもあったように思う。

この頃の安倍政権に対しては怒りを通り越して諦めが先行していた感があるが、それでも冷徹さは失われていない。本書からも一か所だけ引用しておこうと思う。

住む世界があまりに離れすぎると、互いに相手の世界が視界に届かなくなる。視界に入らないものは存在しないのと同じであり、存在しないものについては意識することも考えることもない。消費税八%がもたらす歪みは、こうした社会階層の分断のおかげで顕在化することもなく、結果的に受容されたかたちになるのだが、受容がやがて慣れに変わったとき、そこに出現するのがさらに進んだ貧困の風景であるのは間違いない。(p21)

とはいえ、これはもはや高い経済成長が望めなくなった一方で社会福祉の支出が増大し続ける先進国に共通の、重税と沈滞と格差の風景なのだ。少子高齢化と人口減少が進む日本はその先頭を走っているだけで、先々さらなる増税こそあれ、税負担が軽くなることはない。-/-

抄録

2

-/-かように、あるべき姿というものこそ曲者で、むしろ頭に「〇〇にとって」という但し書をつけるべき事柄なのだろうと思う。とくに近代の国民国家ではなく、神話や神事との境目が溶けだすところまで遡った国の姿を云々するのであれば、なおさらである。

5

-/-ただの小説書きが「識者」などであるはずもないし、何かの専門知識があるわけでもないが、それでもあえて時事的な発信に関わり続けてきたのは、どんな集団や組織にも利害関係をもたず、特定の政治思想や宗教にも無縁な一生活者の視点というものがあってしかるべきだろうと考えるからである。

そうした一生活者の立場は、結果的におおむね偏りのない視線を生み出しており、炯眼でも深淵でもないけれども、ひとまず地道な社会観察につながっているように思う。-/-

6

-/-母体がどのような団体であれ、特定の社会問題についての意見表明は自ずと政治的にならざるを得ない。そのため、いついかなるときも政治的でありなくない作家としては、発起人や賛同者に名を連ねることから逃げざるを得ないのだが、それにしても新聞などで脱原発を説きながら、脱原発を訴える行動に参加しないというのは、自己矛盾ではないだろうか。-/-