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カルペンティエル
失われた足跡

ガイド

書誌

authorカルペンティエル
editor牛島信明(訳)
publisher集英社文庫
year1994
price720
isbn4-08-760237-0

目次

1本文
2抄録

履歴

editor唯野
2006.11.15読了
2010.5.23公開
2010.5.24修正
2012.1.17タグ追加
2020.2.25文字化け修正

非常におもしろかった本。現代における時間旅行、すなわち文明の世界から未開の世界への旅行が、場所だけではなく時間を遡行する旅にもなっており、主人公はそこでの永住を決意するものの、突然元の世界へ連れ戻され、そこへ戻ろうとするが...というあらすじになっている。

文明-未開というラベリングが単に我々の概念に過ぎないこと、文明が手に入れた代わりに放棄してきたものなどなど考えさせられることも多い本であるが、それ以前に圧倒的におもしろい。やはり文学のフロンティアはもうラテンにしかないのかもしれない。

抄録

101 cf.81

-/-いまやわたしは、長いあいだひきずってきた、ある種のものの考え方に疲れていた。そして、いまから十五年もすれば一顧だにされず、否定されてしまうであろうようなことに通暁しているのを誇っている連中が、ここかしこで、日常的にくりかえしていることとはべつのなにかを言ってみたいという、漠然とした願望を感じていた。-/-

115 cf.137

しばらくしてから、わたしは思いきって話しかけてみた。そして、彼女がこれからたどることになっている旅路が、かなりさきまで、われわれのそれと同じであること、また彼女が感心な義務をになっていることを知った。病床で寝こんでいる父親に、家族がこれまで何度も奇跡をほどこしてもらっている<十四補助聖人>の聖像画――これはいままで、よりあかるい祭壇に飾るにたる財力ももつ叔母に管理されていたのだが――をもってゆくため、荒野や高地を越え、多くの島が点在する湖をいくつも渡り、森や平野を通って、はるばる国のむこう端からやってきたのだった。-/-

168

われわれが湿った都市、ブエルト・アヌンシアシオン――そこでは人々が、何百年も前から、たえず攻めよせてくる植物と勝ちめのない戦いをくりひろげていたのだが――に到着したとき、わたしは、<馬の国>を後にして、<犬の国>にやってきたのを知った。-/-