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クレイトン・クリステンセン/マイケル・レイナー
イノベージョンへの解
利益ある成長に向けて

ガイド

破壊的イノベーションを成功に導くための指針

前著を先に読んだ方が分かりやすいです

書誌

authorクレイトン・クリステンセン/マイケル・レイナー
editor玉田俊平太(監修)、櫻井祐子(訳)
publisher翔泳社
year2003
price2000+tax
isbn4-7981-0493-0

目次

1本文
2抄録

履歴

editor唯野
2020.9.3読了
2020.9.6公開

本書は『イノベーションのジレンマ』の続編となる、前著で扱った破壊的イノベーションを脅威として捉えるのではなく、逆にそれを積極的に成功させるための指針を与える本である。そのため、あくまで前著を読んでからの方が理解しやすい内容となっているが、前著が「古典」であるのに対し、本書はまだまだ現在性を持った言い換えれば答えの出ていない内容を扱っている。

もっとも、2003年に訳された本書を巻頭で推薦しているIntelがAMD/ARMなどに後れを取り、NokiaがMSに買収された現状を見ると、いかにイノベーションのもたらす力が激烈であるかはいうまでもない。本書のような指針があってなお、先を読むこと、破壊的イノベーションを持続的に扱おうとすることがいかに難しいかは言を待たない。

しかしながら、それでもなお、この本の指針には相応の説得力があるように思われる。例えば、本書が繰り返し指摘していることのひとつとして「属性ではなく状況に即して」というものがあるが、至極もっともだと思う。これなどは逆に、状況を顧みず盲目的に他者の成功メソッドを真似ても意味がない――という言い方をした方が分かりやすく、それは以下の通りだ。

-/-彼らは一握りの成功企業を観察すると、同じようにすれば誰でも成功できるという本を書く。状況によっては、その問題解決手法が逆効果となる可能性については、顧みることをしないのだ。(p24)

本書で繰り返した重要なメッセージは、状況に基づく理論という手引きなしで、成功した企業のベスト・プラクティスを盲目的に模倣することは、羽根のついた翼を体にくくりつけて強く羽ばたくのと変わらない、ということだ。成功を再現するためには、属性をそっくり真似ればいいというものではない。揚力を生み出す仕組みを理解することが大切なのだ。優れた理論はすべて状況区分を基にしており、求められる成果を達成するためには、状況の変化に応じて戦略をどのように使い分ければよいかを説明できる。-/-したがって、成長を生み出すために読者ができる最も価値ある貢献の一つは、状況の変化につねに目を光らせることだ。-/-(p344)

終章には全体の要約やアドバイスがあるが、p343にある本書が取り上げる主な視点を取り上げると以下のようになる。詳細や根拠は実際に読んでいただくとして、それでも何も拠り所がないよりは、本書の与える指針をベースとして実際問題に取り組み、製品のみならずプロセスやサプライチェーンを含む全体を改良していく――というのが結局は正道ではないかと感じる。なぜなら「イノベーションへの解」はその企業の置かれた状況が千差万別である以上、その「解」自体も千差万別にならざるを得ないためである。

利益ある成長を遂げるために必要な事業構造や初期条件は、これまでの章で説明した通りだ。たとえば、低価格ラインでも魅力ある利益をあげ、しかも上位市場に持ち込むことができるようなコスト構造を最初に構築すること、競合企業に対して破壊的な位置に付けることで相手に戦うよりは逃走したいと思わせること、これまで無消費だったためにそこそこの製品で満足してくれる顧客の攻略から始めること、顧客が片づけようとしている用事にターゲットを定めること、これまで金があった場所ではなくこれから金が向かう場所へ滑走すること、経験の学校で適切な科目を履修したマネージャーに任務を任せ、必要な課題と調和したプロセスや価値基準のなかで任務を遂行させること、有効な戦略が出現したらそれに柔軟に対処すること、そして成長を気長に待てる資金で始めること、などである。最初にこのような条件を整えることができれば、将来をそれほど深く見通す必要はなくなる。成功につながる魅力的な選択が、自然と目の前に現れるからだ。他方、魅力的な選択肢が出現せず、正しい選択をすることが難しくなるのは、この正反対の条件から始めるときだ。(p343)

それゆえ、不透明な世界を手探りで進むためには「構築-計測-学習」というループを回す『リーンスタートアップ』が有効になる...と書いてしまうと前著の読書ノートと同じになってしまうので後は省く。

抄録

1-2

本書のテーマは、ビジネスにおける新たな成長を生み出す方法である。-/-成長を企てること自体が、企業全体を破滅に追いやることも多い。-/-株式市場は成長を要求する。だが、どうすれば成長できるのかはわからない。しかも誤った方法で成長を追求することは、まったく成長しないよりたちが悪い。

5

中核事業が成熟した後に新たな成長の基盤を築こうとして、これと同じような試みを行う企業は非常に多い。こうした試みは、実によく似たパターンをたどる。中核事業が成熟に向かい、投資家が新たな成長を要求すると、経営者陣(ママ:唯野注)は一見意味のある成長戦略を編み出す。だが、彼らの計画では、積極投資を行っても、必要な成長を十分早く生み出せない。投資家は株価を打ちのめし、経営陣は更迭される。新しい経営陣が以前の状態を取り戻すと、つまり成長は鈍いが収益性は高い本業に回帰すると、金融市場はそのことだけを評価する。

6