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ホルヘ・ルイス・ボルヘス/アドルフォ・ビオイ=カサーサス
天国・地獄百科

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書誌

authorホルヘ・ルイス・ボルヘス/アドルフォ・ビオイ=カサーサス
editor牛島信明/内田吉彦/齊藤博士(訳)
publisher水声社
year1982
price2000+tax
isbn4-89176-261-6

目次

1本文
2抄録

履歴

editor唯野
2012.2.7読了
2012.6.13公開
2012.8.17修正
2013.6.8修正
2013.6.13修正
2020.2.25文字化け修正

『ボルヘス怪奇譚集』同様に短編のアンソロジーである。本書の意図するところと意義は、あとがきの以下の一文(p167)に集約されているので、これを引用する。当然ながら、私が付言すべきものなど何もありはしない。

ボルヘスにとって厳密な意味での個人の創造などありえない。彼にとって文学営為とは何よりもまず世界の伝統を継承すること、従ってまず読むことであり、創り出すことではないのである。そして、本というものが伝統に基づく、歴史的、集団的な意識の産物であるとするなら、そこでは<個>は滅却し、本に署名など必要ないというのだ。

抄録

9

ある時、フランスの聖王ルイ九世はシャルトルの司教イヴォを遣いにやったが、戻ったイヴォは国王にこう語った――道中、片方の手に松明を持ち、もう一方に水瓶をかかえた、しかつめらしくも傲然たる物腰の年かさ女に出逢いました。いかにも敬虔そうな、しかし愁いに満ちた彼女の顔が、同時に何か夢見るように輝いていましたので、私は彼女に、その両手のものが何を意味するのか、また、その火と水で何をしようとしているのか、と訊ねてみました。答えはこうでした――水は地獄の業火を消すため、火は天国を焼き払うためです。私は人々が神を、ただ神の愛ゆえに愛するようになって欲しいのです。――ジェレミー・テイラー

19

悪魔たちから聞いたところでは、感傷的な人間や、衒学的な連中が落ちる地獄があるとのことだ。地獄に落とされた彼らは、がらんとした、窓のない、果てしもなく広い館に投げこまれる。すると彼らは、あたかも何かを探すかのように、その中を歩き回るが、やがて観念すると、何よりも苦しいのは神の御姿にまみえることができないことであるとか、精神的苦痛は肉体的苦痛よりこたえるとかいった御託を並べ始める。そこで、悪魔たちが彼らを火の海に投げこむが、もはや誰も彼らを救い出してはくれないのである。――アドルフォ・ビオイ=カサーレス「愛の花冠」

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