エリヤフ・ゴールドラット
クリティカル・チェーン
なぜ、プロジェクトは予定どおりに進まないのか ?
書誌
author | エリヤフ・ゴールドラット |
editor | 三本木亮(訳)、津曲公二(解説) |
publisher | ダイヤモンド社 |
year | 2003 |
price | 1600+tax |
isbn | 4-478-42045-9 |
履歴
editor | 唯野 |
2020.10.20 | 読了 |
2020.10.21 | 公開 |
2020.10.22 | 修正 |
TOC(Theory of Constraints : 制約条件の理論、本書の解説の言葉でいえば「システムのアウトプットは、その最も弱い部分(ボトルネック)の能力で制約される」)を扱った小説仕立ての本。著者はTOCを生産管理だけでなくビジネス全般に適用できるものとして、それがプロジェクト・マネジメントにも生かせることを示す目的で本書を書いている。
期間が予定通りにはいかず予算も超過する、または当初の予定を削ることで期間に間に合わせる――そんな辺りが多くのプロジェクトの実態であることは疑うまでもないが、期限に間に合わせるのみならず、さらに踏み込んで本書では「プロジェクトを予定よりも早く終わらせるための方法論」としてTOCを扱っている。また、最後の方では複数プロジェクト間でのリソース競合についても触れ、それを可視化するために使われているのが本書のタイトルでもある「クリティカル・チェーン」となる。
-/-「優れたコスト・パフォーマンスを実現するには、優れたローカル・パフォーマンスを図るしかない。企業やマネジャーの多くは、この仮定が正しいと考え、これに従って行動しています。TOCでは、これが今日企業が抱えるいちばんの根本的な問題だと考えています」(p155)
私の理解では、要は個々の作業はすし詰めにして行わせ、作業単位ではなくプロジェクト上のまとまり単位などにバッファを設け、そこで時間調整を行う。また、単一プロジェクト内・複数プロジェクト間を問わず、ボトルネック(=制約、通常は1つで競合リソースである場合が多い)を先に見つけクリティカルパスの優先度に従って先に調整をしておく(他のリソースはボトルネックに合わせる)――ということだ。最大の効果はマネージャーが余計なリソース間の調整に時間を使うのではなく、プロジェクトの本質(クリティカルパス)に基づいた正しい判断を下せるようになる点である。
乱暴に言えば、マネージャーはプロジェクトを細分化したからといって正確に管理できるわけではない。「木を見て森を見ず」のたとえではないが、クリティカルパスとボトルネックに注力した方がはるかにうまく回るということを言っている。そのため私が付け加えるとすれば後は一点だけである。要はボトルネック(リスク)をとにかく前倒しする、やれることには全て手を打っておく、ということだ。当然ながらプロジェクトでは予期しない問題、他からの割り込みの起こるのが通常である。そしてリソースの中でも時間だけは取り戻すことができない。ゆえに、リスク(本書でいえばボトルネック)管理を優先するということである。
私のリスク管理の考え方については既に「マネジメントとは何か」に書いたので繰り返さないが、本書からもそれを裏付けることができたのは良かった。もっとも実践ではまだまだ改良していかねばならないが...
主要登場人物
リック | MBA準教授(プロジェクト・マネジメント論)、主人公 p14 |
ジム | MBA主任教授(生産システム論)、リックの上司 p14 |
ジョニー | MBA教授(生産論)、TOCの事例を示す p127 |
シャーレーン | MBA教授(会計学) p206 |
B.J.フォンブラウン | 学長 p25 |
クリス・ペイジ | 学部長 p49 |
ジューディス | リックの妻 |
マーク・コワルスキー | MBA学生、ジェネモデム社のグループ・リーダー p8 |
ルース・エマーソン | MBA学生、ジェネモデム社のマーケティング p9 |
フレッド・ロメロ | MBA学生、ジェネモデム社の経理 p9 |
テッド、チャーリー、ロジャー、ブライアン | MBA学生 p36,39,40 |
ダニエル・プルマン | ジェネモデム社CEO |
アイザック・レビ | ジェネモデム社エンジニアリング担当上級副社長 |
ドン・ペダーソン | ジョニーがTOCを研究したユニコ社の副社長 p157 |
抄録
12
しばらくの沈黙の後、アイザックは三人の心を見透かすように言った。「製品の開発には二年かかる。しかし、新しい製品は六か月おきに出していかなければならない。行き着くところはひとつしかない。
いつか 、しくじる時が必ず来るということだ。〝しくじるかどうか〟ではない。このままでは、しくじることは目に見えている。問題は、〝いつ、しくじるか〟だ。しかしさっきも言ったように、我々にしくじることは一度たりとも許されない」それが何を意味するのか――みんな、その言葉を理解しようと、座ったまま口を閉じた。しばしの沈黙を破って、アイザックが口を開いた。「君たちの使命は、開発期間を大幅に短縮する方法を見つけることだ。-/-
61
「さっきも言いましたが」テッドがすぐに手を挙げた。「問題の原因ですが、すべてに共通している点があります。すべて、他人のせいだということです。みんなで責任の押し付け合いをやっています」
「それだけではありません」マークがはっきりと言った。「共通した傾向が見られます。下のほうの人間になればなるほど、社外ではなく社内で責任の押し付け合いをしています。-/-
64
「いいえ。不確実性こそがプロジェクトの本質です。それがプロジェクトというものです」