高橋是清
随想録
ガイド
書誌
author | 高橋是清 |
publisher | 中公クラシックス |
year | 2010 |
price | 1850+tax |
isbn | 978-4-12-160121-6 |
履歴
editor | 唯野 |
? | 読了 |
2015.5.26 | 公開 |
2020.2.25 | 文字化け修正 |
高橋是清の本は既にこの読書ノートでも 『高橋是清自伝』 を取り上げているが、これは非常におもしろく、かつ読み応えのある本なので、機会があればぜひとも一読をおすすめする。本書は翻って書名にもある通り短文を集めたもので、特に意図された流れがあるわけではないが、高橋是清の幅広い側面を知ることができる一冊となっている。まえがき部分にもあるように、確かに彼は徹頭徹尾「明治人」であって、独立独歩の気風が強く、それが自身の人生観、他者への人生訓としても素直に反映されている。非常にわかりやすいといえばわかりやすく、そういうところがまた魅力になるのだと思う。
私は安易に時代の異なる高橋是清による金融政策と昨今のそれを比較しようとは思わないが、それでも違いがあるとすれば、それは政策うんぬんよりも、それ以前の政治家としての気概というか拠って立つ部分ではないかと思う。安倍首相に限らず昨今の政治家は天下国家を語るというよりは、良い悪いも自分にとっての好き嫌いという矮小化されたレベルの語り口として感じることが多い。端的にいえば命までは賭けていない(賭ける必要がない)という感じであって、高橋是清に限らず明治期の政治家で実際に命まで落とした者が少なくないことを考えると対照的である。そして、もうひとつは失政に対する責任の取り方だと思う。悪いを悪いと認めず、野に下るのもほとぼりが冷めるまでの時間稼ぎという体では、そもそも国民も納得しないだろう。
残念ながらアベノミクスは失敗だった。日銀黒田総裁は2年で物価上昇率2%という目標を掲げていたが、全く成果を出せずに国の借金だけが160兆円近く増えた。為替相場が円安となり輸出産業が恩恵を蒙ったような記述を目にするが、それ以前に日本はトータルで見れば貿易赤字なのである。これらは一般家庭の場合として置き換えてみれば、その異常さがよく分かる。もともと年収の半分が借金の上に、2年間で借金した年収4年分を投資に使い何も残らなかった――といわれれば、どう思われるだろうか。本書で高橋是清もいうように確かに経済政策の成果を一朝一夕にして評価することは難しい。また、やる前から批判するだけなのも建設的ではない。しかし、ある程度やって効果がないのであれば、当然その非は認め、修正なり方針転換が必要である。政治における信念を貫くことと結果の出ないことを無理やり続けることは別である。後者は単なる意固地であり、更にいえば高橋是清が強く戒める「自惚れ」に過ぎないと思うのだが。
抄録
3
窮地を救ったのがシフである。シフは高橋の日本に賭けた。シフが公債発行を引き受けると、イギリスも応じた。外債発行六回、総額一億三〇〇〇万ポンド。高橋は戦費調達に成功する。高橋は賞讃する。「日露戦争中公債の募集が成功したのはシフの功績と言ふものだ。私の功績ぢゃない」。事実そうだった。
要するに日本は、ロシアとの戦争をとおして国際金融のネットワークのなかに参入することになった。この過程は高橋を国際金融家にする過程でもあった。日露戦争によって、高橋は国際感覚を持つ財政金融家 = 国際金融家となった。
これはユダヤ資本家のシフがロシアよりも日本に肩入れした経緯がある。
5 cf.253-258
親任式の後すぐに高橋は日銀と協議する。日銀は金庫の破損札まで根こそぎ銀行券を放出し、大量の紙幣を刷って、非常貸出をつづける。政府は二十二、三の両日、銀行の自発的休業を指示し、他方で三週間のモラトリアム(支払い猶予令)を緊急勅令によって発した。前内閣の轍を踏むことのないように、枢密院とは打ち合わせ済みだった。