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夏目漱石
私の個人主義

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書誌

author夏目漱石
publisher講談社学術文庫
year1978
price400
isbn6-158271-2

目次

1本文
2抄録

履歴

editor唯野
2002.5.20読了
2002.5.26公開
2002.8.4修正
2020.2.25文字化け修正

文豪漱石の講演 5 つを収めた本。最も著名といえるのは明治日本の開化が内発的なものではなく外発的なものであると論じた「現代日本の開化」だと思うが、個人的に最も感銘を受けたのは最後の「私の個人主義」で、今日でも十分な読み応えがある。むしろ、高尚な理詰めというわけではなく、卑近な例を元に論を進める漱石の姿勢には説得力にも普遍性が宿っているような印象を受ける。私はいうほど漱石の本を読んでいるわけではないのだが、本書はそれほど厚くもないし、かなりの良書である。(他には「道楽と職業」「中味と形式」「文芸と道徳」が収められている。)

ところで、関係のない話をひとつ。実は、この本は古本として入手した本なのだが、頭に紙片が 1 枚はさまっており、そこには「祝成人 心寛く 思い高く 永き 人の世を 楽しめ」と書いてある。私はどんな本であれ、それは流転するものだし、だからいかなる理由でこの本が古本屋にやってこようと、その来歴を問うつもりはない。しかし、こういうものから、その本の過去の一端を垣間見ることができたりすると、それはそれで素直におもしろいと思う。これも古本だけが持つ妙味であろう。

抄録

19

私は未だかつて衣物(きもの)を織ったこともなければ、靴下袋を縫ったこともないけれども、自ら縫わぬ靴下袋、あるいは自ら織らぬ衣物の代りに、新聞へ下らぬ事を書くとか、あるいはこういう所へ出て来てお話をするとかして埋合せを付けているのです。私ばかりじゃない、誰でもそうです。するとこの一歩専門外になるというのは外の意味でも何でもない、すなわち自分の力に余りある所、すなわち人よりも自分が一段と抽(ぬき)んでている点に向って人よりも仕事を一倍して、その一倍の報酬に自分に不足した所を人から自分に仕向けて貰って相互の平均を保ちつつ生活を持続するという事に帰着するわけであります。それをごくむずかしい形式に現わすというと、自分のためにする事はすなわち人のためにすることだという哲理をほのめかしたような文句になる。cf.18/20/30

21-22