戸井田道三
忘れの構造
ガイド
書誌
author | 戸井田道三 |
publisher | ちくま文庫 |
year | 1987 |
price | 460 |
isbn | 4-480-02181-7 |
履歴
editor | 唯野 |
?.5.6 | 読了 |
2015.3.23 | 公開 |
2015.4.4 | 修正 |
かなり昔に読んだ本で、著者の本はもっと読まねばと思っているのだが、そうはなっていない。私自身としては「いかにもちくま文庫らしい本」というところで、流行りに流されず、かといって岩波のように固くもないという、いい意味での読みやすさ・落としどころを得ている感じ。良質な読み物というのは、こういう本のことをいうのではなかろうか。
抄録
13
しかし、年をとって、すっかり忘れっぽくなってしまった。覚えるより忘れる方が早いのではないかと思うほどである。また、どうせ忘れるのだからというあきらめがさきにたって、覚えなくなってしまったのもたしかだ。命にかかわるような大事なことなら、たぶん忘れないだろう忘れるのは忘れてもさしつかえないことだから忘れるのだ。そう思って、今は自分の忘れっぽさに対処している。
22
それはとにかく「忘れたということは絶対的なひびきをもっている。余人はもちろん当人にもどうすることもできない。神さまのおぼしめしのようなところがある。広大無辺な宇宙のむこうの真暗闇で、底知らずである。つかまえるにつかまらず、さればといって無視するわけにもいかない。恐ろしい存在だ。
ほんとに困るのは、忘れたということさえ忘れてしまったのではないかと思いはじめたときなのである。
33
ジャン・ピアジェによると、幼児が言葉を覚える過程が構造を形成することに対応するそうで、だから言語を異にしても
わかる ことそのことはちがわないと考えられるらしい。らしい、などとあやふやないいかたをするのは、私にはピアジェなどという学者のいうことはわかったとはいいきれないからである。