中勘助
鳥の物語
ガイド
書誌
author | 中勘助 |
publisher | 岩波文庫 |
year | 1983 |
price | 550 |
isbn | 31-051-2-Z |
履歴
editor | 唯野 |
2002.8.29 | 読了 |
2001.9.2 | 公開 |
2002.9.16 | 修正 |
2020.2.25 | 文字化け修正 |
中勘助といえば『銀の匙』が有名だが、いうまでもなく他にも著作はある。(もちろん『銀の匙』は実際にも優れた本だと思う。うまくはいえないのだが、中勘助の好きな人にいじめのする(できる)人はいないのではないかという感じがする。)ただ、恐らくは現在だと文庫では岩波文庫ぐらいでしか読めないのではないだろうか。古本屋を冷やかしていると角川文庫などでも昔は割と出していたりするのだが、とても地味な作風の人だけに当世風でないという一言で片付けられそうな感じが強い。しかし、そうやって片付けてしまうには極めてもったいない作家だと思う。
# 一応、愚痴っておくと本当に春樹以前の角川にはいい本がたくさんある
# 私はだからといって今の角川が悪いとはいわないが、
# これまた極めてもったいない話だとは思わずにいられない
内容は書名の通り、各話がある種類の鳥を主人公にした童話的短篇の集まりとなっており、具体的に登場するのは雁、鳩、鶴、ひばり、鶯(うぐいす)、白鳥、いかる、鷹、鵜(う)、鷲、雉子(きじ)、かささぎ――である。しかしながら各話の舞台は日本、中国だけではなく中東であったりインドであったりで幅が広い。
非常に読みやすいのに、ときには名もない鳥の見る人間の愚かな所業に対する慧眼にはっとさせられる箇所もある。まあ、他の動物から見て人間が愚かに見えるところの多いのは確かだろうが、そういう斜に構えなくても自然にそれを感じさせてしまう雰囲気がこの人の本にはあると思う。
抄録
51
夜のあいだ目をなくしたも同然の仲間には朝は人間のそれより十層倍も輝かしいものだった。鳩はいそいそとしてねぐらをたった。きのうにかわらず行水の連中はヨハネのところに集り、きのうにかわらずヨハネはひげのなかから火をふきそうにわめいている。お伽話のつづきみたいなものだな と鳩は思った。人間は水をあびるにもお伽話がいる。ただ腑におちないのはそれを話すほうもきくほうもひどく渋面をつくってることだ。
302
「まことにこのおかやきと申すものは――日本でははたから妬みますのを俗におかやきと申します。――愚かの極みでございまして、私どもが仮に恋をする人間の身になって考えましてもはたの者から妬まれてかれこれ嫌なことをされませば、殊に女の身ではそれだけいっそう恋人に縋(すが)りたくなります道理で、妬めば妬むほど、憎めば憎むほど、いよいよますます離れがたくなるにちがいございません。恋に目がくらむとか申すそうでございますがこれくらい見やすい道理がわからぬところをみますと妬みほど人の目をくらますものはありますまいと存じます」
と語り手の鵜が一席弁じた。