高橋康夫
物語 ものの建築史
建具のはなし
書誌
author | 高橋康夫 |
editor | 山田幸一(監修) |
publisher | 鹿島出版会 |
year | 1985 |
price | 1300+tax |
isbn | 4-306-09292-5 |
履歴
editor | 唯野 |
2020.4.3 | 読了 |
2020.4.5 | 公開 |
副題にもある通り日本建築を構成する部品に焦点を当て、その歴史を遺構と史料から追った本。本書はその建具編であり、現存する最古の建具(法隆寺金堂)から蔀戸などを経て明障子や舞良戸の登場する近世初期頃までを扱っている。そのため逆にいうと近代以降のガラス戸であるとか、西洋由来のドア金物といったものは取り上げていない。
建具というのは可動部分であるため、どうしても創建当時のものが残る可能性は低くならざるを得ず、特に軽量な障子・襖においてはなおさらそうであろうと思われるが、全体としてはよくまとまっていると思う。また、それほど堅苦しくもない内容で読みやすくエッセイ調である。とはいえ、あくまで残されたものから変遷をたどるという感じであり、大工技術にも通じるところがあるが、関連する道具や材料の変遷に伴う製作方法の移り変わりなども、もう少し掘り下げてほしかった感じがした。
抄録
1
およそ社会が活性をおび新しい文化が創造されようとするときには、まさにその逆をいくような懐古的思潮が必ずといってよいくらい起こっている。かつて世界に魁て産業革命を進行させたイギリスではジョン・ラスキンがゴシックへの回帰を唱え、ウィリアム・モリスは手工芸の再興を訴えた。-/-
4-5
日本で最古の建築というと、もちろん斑鳩の法隆寺金堂である。この金堂のなかの扉が創建当時のものであれば、この扉はほんとうに日本最古の建具ということができる。しかし、残念ながら当初の扉は昭和修理時の火災によって内面を焼損してしまい、今は、その焼損部分を引き落とし、二枚を張り合わせて一枚の扉としたものであるから、もともとの材料を使っているとはいえ、最古の建具というのはややはばかられる。ちなみに当初の扉は、高さ約三メートル、幅約一メートル、厚さ約十センチメートルの檜の節なしの一枚板で、反ったり、曲がったりというような狂いはまったくなかったという。このような檜の大材が近所から入手できた当時であっても、十分に乾燥させ、入念に加工するなど、大変な仕事であったに違いない。