坂本 義和
相対化の時代
書誌
author | 坂本 義和 |
publisher | 岩波新書 |
year | 1997 |
price | 640+tax |
isbn | 4-00-430525-X |
履歴
editor | 唯野 |
?.9.10 | 読了 |
2020.5.8 | 公開 |
2020.5.13 | 修正 |
2020.5.17 | 修正 |
元々は雑誌『世界』に掲載された論文を加筆したもので、相当以前に読んでそのままになっていた本である。今、改めて読み直してみると、正直なところ戦後の典型的な革新派の言論という感じが強い。
冷戦終結を受けて個人だけでなく国家・経済を含めた価値の相対化を下敷きとしつつ、その中で果たすべき民主主義、国際社会、市民社会の姿というものを論じている。当然ながら、民主主義、市民社会を是とした上での国際政治・国際平和を語っており、開かれた市民社会においては市民により強い責任を果たす必要が求められ、そういう中において日本に対しては過去の戦争責任を認めることや、自衛隊とは異なるPKO専用の部隊を持つことなどが提言されている。
経済発展に伴う地球環境問題から国連の課題まで扱う範囲は広いが趣旨は非常にはっきりしておりブレもない。少し古く感じる部分もないわけではないが、民族紛争なども含め「国家がどういう意図で民族主義や武力を持ち出すかの背景・意図を知ることが重要である」というのは全くその通りだと思う。日本社会、とりわけ戦後の市民運動に対する問題点・反省点などがはっきり指摘されているのも良い。当時の世相だけでなく、現在にも通じる点として何があるのか、という視点で読めば今でも読める本だと思う。
抄録
iii
世界が、このように速い構造的変化のさなかにある以上、人間のアイデンティティの混迷が生じるのは避けられない。逆にいえば、現代を生きる自分のアイデンティティを確立するには、現在に埋没したままで不毛な「自分探し」をするのではなく、現在の世界と自分とを突き放して、歴史のなかで相対化し、それによって、いま自分がどこに立っているかを探ることが必要だろう。
現在を歴史のなかに相対化するということには、二つの側面がある。一つは、現在の自分の意識や存在を、無意識的に制約している歴史の
拘束性 を意識化することである。
v
現在の自分を歴史的に相対化する、もう一つの側面は、これまでの歴史にない、未来への
可能性 を意識化することである。-/-
vi
現在のような深い変動の過程にある世界では、単に現象や出来事の変化を追って理解するだけではなく、それらをとらえ、歴史の意味を解釈する主体の視点そのものを、構築しなおさなければならないと私は考えている。私のそうした模索はなお続いているが、本書は、その一つの試論だと受け取っていただきたい。