小川千賀子
女性の生活目線でわかった!
99%失敗しない「理想の家づくり」
ガイド
建てた後の後悔を減らす
http://www.amazon.co.jp/dp/4537212934
書誌
author | 小川千賀子 |
publisher | 日本文芸社 |
year | 2015 |
price | 1300+tax |
isbn | 978-4-537-21293-8 |
履歴
editor | 唯野 |
2015.11.7 | 読了 |
2016.1.18 | 公開 |
副題にもあるように女性が家を建ててから実際に生活をしてみて「ここをもっとこうすればよかった、ここがよかった」という事柄を井戸端会議風にまとめた本。各居室ごとに章立てされており、井戸端会議で出てきた事柄が章末にチェックリストとして付属しているため「これから家を建てたい」という人が見落としがちなポイントを把握しやすいようになっている。
確かに一般的な建築の本は設計士なり工務店など業者寄りのものが多く、施主向けのものはハウスメーカーに代表されるような美辞麗句に彩られたイメージ優先のものが多い。施主の心理としても「できた後」より「現在の住まいの不満解消」に目が行きやすい。一方、「プロだからお任せで大丈夫」というのが大きな落とし穴であることは本書を読むまでもないことであり、要望がなければえてしてプロは「自分がよいと思うもの (もしくは自分・自社にとって都合のよいもの)」で施工しがちであり、それが施主の普段の生活スタイルや許容度と一致しなかったとき、トラブル・クレームが発生するのだと思う。
その意味では本来は安い買い物でもなく、車のように買い替えのできるものでもない以上、施主自身も相応の勉強をし、(もちろん予算などの制約はあるのだからその範囲内での)優先すべきポイントを施工者にきちんと伝える必要がある。特に日々の生活においては「ちょっとしたこと」でも、それが毎日のことだと負担になりやすい。本書はそういう点に的を絞った解説をしており、その意味では過不足なく良書だと思う。例えば、後付で高齢者のために手すりなどを付けたくなっても壁に下地が入っていなければ取付できない――などは完成された壁しか意識したことのない施主の立場だと分かりにくい。一方、玄関先で両手がふさがっていても人感センサーの明かりがあると便利――など最近の動向を踏まえた指摘もある。
個人的には大まかなものでもよいので10年後・20年後くらいまでのことを多少は意識した中で考えられると、よりベターだと思う。例えば上述のセンサーライトは10年前にはなかったわけだし、パソコンひとつをとってもタブレットや無線LANなどは一般的ではなかった。逆に10年後にはスマホから家電を操作している可能性もある。そのため逆説的ではあるが「余裕を持って作り込み過ぎない」方がよい場合も確かにある。例えばテレビ棚をテレビちょうどの寸法で作ってしまうと、(その当時には存在しなくても)後から大型のものへの買い替えはできないわけで、それならばテレビ周辺全体を可動棚にしておく、部屋の模様替えをしてもよいようなスペースを勘案しコンセントも配置しておく――ということも選択肢のひとつになり得るからである。
お掃除ロボットのように家事の負担を減らしてくれる新しい家電が登場する一方、使い慣れた掃除道具で丁寧にやりたいという人もいる。人によって求めるものが違う以上「これが満たされれば、これは不便でもいい」というポイントも当然ある。この種の選択にトレードオフが付きまとうのは避けられないものの、それでも「毎日のこと」にある程度の重きを置いた方が結果的には満足できる(=不満が少ない)とはいえるように思う。その意味では、この種の本がもっとあってもよいのではないかと思った。
なお、いうまでもなく、敷地全体の有効な使い方、採光・通風・動線などを考慮した間取りなどについては本書では扱われていない。それゆえ、これらは他の本を当たってもらうとして、個人的に本書に関連して合わせて有効だと思われるものをいくつか紹介しておこうと思う。
リソース
<img sippaisinai_suumo.jpg>suumo 先輩136人の「しまった!ランキング」でわかった、失敗しない間取りのつくり方 | |
音や照明など事前には想像にしくい視点を含めて失敗例をベースに紹介している。 | |
<li>鈴木信弘『片づけの解剖図鑑』エクスナレッジ | |
収納を単なるスペースの増減で考えるのではなく、何がどこにどう片付いていればよいのかという少し広い視野で捉えており間取りを考える時点でためになる。建築後ではなく前に読む本。 | |
<li>『改訂版 小さくても居心地のいい家を建てる152のコツ』主婦の友社 | |
この種の本はいくらでもありますが、上述した「作り込み過ぎない」と同時に、それでも「限られた空間をいかに使うか」も合わせて知っておくべきでしょう。 |