柴田練三郎
眠狂四郎無情控 (全2冊)
ガイド
書誌
author | 柴田練三郎 |
publisher | 新潮文庫 |
year | 2007 |
price | 590+tax |
isbn | 4-10-115053-2 (上巻) |
履歴
editor | 唯野 |
2013.5.5 | 読了 |
2013.6.15 | 公開 |
2020.2.25 | 文字化け修正 |
シリーズ最高峰といわれる作品で一気に読ませてもらったのだが、ここには大衆文学として求められる要素が全部ある――という感じの本だった。細かいところの出来不出来よりも、一気呵成に読ませることに特化した印象が強かった。もちろん、この場合には、それが一番大事なのは、いうまでもないが...
はっきりいってしまうと、読書ノートとしては江戸時代の薀蓄話に偏ってしまったきらいはあるものの、大奥や伊勢詣の辺りなんかは、単なる知識としてだけでもおもしろかった。
主要登場人物
眠狂四郎 | 主人公、円月殺法を使う |
佐兵衛 | 伊豆半島南端、石室崎の灯台守、元岡っ引きで狂四郎の知人 |
沼津千阿弥 | 江戸城本丸同朋(坊主衆の監督役)、鶴岡八幡宮で割腹自殺する cf.上258 |
千華 | 狂四郎に救われた異人の娘、ぶうめらんを使う |
水野越前守忠邦 | 本丸老中、老中筆頭を目指している cf.上183 |
武部仙十郎 | 水野忠邦の側用人、眠狂四郎とはしばしば依頼人の関係にある |
夜働き、背後にいるのは... | |
死神九郎太 | 過去にも何度か眠狂四郎と出会ったことのある因縁のある男 |
金八 | 大根河岸の人間で、眠狂四郎と伊勢行を同行する |
佐喜 | 御家人の娘で沼津千阿弥の隠し妻 cf.上186-187 |
小笠原相模守長貴 | 若年寄、越前守の部下である |
下条主膳 | お目付、相模守の部下である cf.上160 |
志村源三郎 | 狂四郎を狙う刺客で、狂四郎とは異なり正統派の剣客 cf.上244-245/249-250 |
阿蘭陀屋嘉兵衛 | 商人、闇斎と手を組む一方で独自にも動く |
佐賀闇斎(日本太夫) | 琉球人とのことだが、実は暹羅の山田長政の後裔 cf.上311/下220 |
お通 | 闇斎によって育てられた傾城の娘 |
村山東庵 | カステラを日本に伝えた人物、本書では秀頼の秘文を持ち返った設定になっている cf.上346/349/355-356 |
吉五郎 | 夜盗。狂四郎とともに大奥へ潜入する |
莫邪主馬助(ばくやしゅめのすけ) | 安南の日本人町統領、千華とともに日本に潜入する、暗斎とはライバル関係 cf.下102 |
壬生宗十郎 | 闇斎の部下であるが実は... cf.下137145 |
竜堂寺鉄馬 | 志村源八郎の弟、伊勢から狂四郎に付きまとう cf.下420-421 |
抄録(上巻)
11
「……迷えば煩悩、悟れば菩提……というが、わたしのような悪業の徒は、どう悩んでみたところで、風を繋ぎ、影を捕えるというやつだ。……尤も、凡夫盛りに神崇めなしで、当分は図迂々々(ずうずう)しく、生きて行きそうだが……」
この言葉に対する佐兵衛の返辞は、次のようなものであった。
「悟ろうと思うと迷い、と申すではありませんか。あっしは、無学文盲で、むつかしいことはよくわかりませんが、だんだん年をくらうにつれて、苦しいことや悲しいことは、なるべくその日のうちに忘れてしまうようになりました。どうせ、てめえのようなごみ屑にひとしい野郎が、じたばたしたところではじまらねえ。起きて半畳、寝て一畳、天下取っても二合半、公方さまも、てめえも、食って寝ることにちがいはありやしねえ――とまあ考えて、仰せつけられた御用を、なんとかつとめ終えて、せめて畳の上で往生させて頂けりゃ、これで思いのこすこたアない、と自分に云いきかせて居ります」
45
高等馬術は、徳川期に入って大いに発達したとはいえ、千鳥とか立鼓乗は、元禄頃までで、その後の馬責めは、きわめて尋常の修練になっていた。