高村薫
レディ・ジョーカー(全3冊)
ガイド
書誌
author | 高村薫 |
publisher | 新潮文庫 |
year | 2010 |
price | 705+tax (上) |
isbn | 978-4-10-134716-5 |
履歴
editor | 唯野 |
2011.04.18 | 読了 |
2011.10.22 | 公開 |
2020.2.25 | 文字化け修正 |
本書で高村薫が描いているのは「現実にやって来てみなければ分からないが、間もなく自分に訪れるのは、ほとんど目まいを覚えるほどの自由だと思うとき、たしかに倉田が言ったように、しばしの拘束も不名誉も何ほどのことはない、という気がした。」(下巻、p400)に見られるような、登場人物たちの、何かしらからの解放ということなのだと思う。まあ、それを言ってしまうと他の作品も同様に感じられるわけなのだが、レディ・ジョーカーの面々、それを追う側である警察の合田、被害に遭ったビール会社の役員たち――そのそれぞれが、何が動機で何が正解かは分からないものの、一種の解放というか自由を得ていっているのではないかと私は思う。
この辺が単なるミステリではない著者の物語のおもしろさの一端だと思うし、おかげで一気に読んだけれども、犯行の動機からして曖昧な辺りが今風という気がしないでもない。むしろ、そんなに分かりやすくないというか単純でもないというのが、著者のメッセージであるような気がするし、私が上で勝手にいっている登場人物たちにとっての解放ということだって、どこまでも曖昧といえば曖昧だ。例えば、半田、高、布井、物井は何から解放されたのか ? それは彼らの本当に望むものだったのか ? そして世に知られることもなく新聞記者の命が消えていく世界の中で、そうやって本を読んでいる自分は何から解放されたいのか ? ――等々である。
# ちなみに抄録のほうは割とネタばれを含みますのでご注意ください。
抄録(上)
44
月のものがあったのなら、女児はたしかに今日からレディだ。物は言いようだと呆れつつ、物井は同意の相槌を返したが、適当な言葉も見つからなかった。
72
岡村さんは手紙のなかで、会社の同僚四名について触れている。その四人は全員、被差別部落出身者です。うち一名は依頼退職で、三名は不当解雇だったんですが、その三名については当時の解放委が調査をして、日之出に抗議をした記録があるんで、岡村さんはでたらめは書いていません。ともかく、日之出は痛い腹を探られたそのときの経験を教訓にして、以来この手の問題にはとくに敏感になったというわけです」
106-107
実際、白井が朝の忙しい時間にこうして城山の前に姿を現したのは、当然根回しの腹があるからで、それはおおかた倉田のなにがしかの一手を牽制するために違いないのだが、心情的に倉田に近いのは当たり前の城山のところへ、こうして出向いてきた白井の思惑を、ひとまず推し量ることに城山は時間を割いたつもりだった。