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国枝史郎
神州纐纈城

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書誌

author国枝史郎
publisher講談社大衆文学館
year1995
price840
isbn6-262002-2

履歴

editor唯野
2005.10.10読了
2005.10.16公開
2005.10.19修正

大正モダニズムを背景に独特な伝奇物語作家として一時を成した著者の代表的長編。三大長編として他に出世作ともなった『蔦葛木曽桟(つたかずらきそのかけはし)』『八ヶ嶽の魔人』とがあるが、このうち完結しているのは『八ヶ嶽の魔人』のみである。そのため、本作も未完のまま物語は終わってしまうのだが、巻末エッセイにおいて半村良が自らも強い影響を受けたと書いているように、確かに物語は読者をぐいぐいと引き込んでいく力に満ちている。

半村良はその力の源泉を連載という作品の発表形式に求めているが、私から見ると三島由紀夫も賞賛したという華麗な文章との相乗効果によって、今日でもおもしろい作品になっているのではないかと思った。単に伝奇物語というわけでもなく、単に流麗な文章というわけでもない。その両者がお互いによい結果を引き出した結果という感じがするのである。

主要登場人物

土屋庄三郎 主人公、武田信玄の寵臣。父とその兄を求めて富士の裾野へ向かう cf.12、234

快山国師 信玄の幕僚の名僧 cf.35

三合目陶器師(すえものし) 北条内記、陶芸家そして殺人鬼 cf.46、293

直江蔵人(くらんど) 上杉家に仕える薬師。人間の五臓より万病に効く五臓丸を作る cf.60.215

直江主水氏康 蔵人の息子。松虫という娘がいる

高坂甚太郎 高坂弾正の妾腹の子。盗賊の才があり信玄の命で庄三郎を追う。纐纈城に迷い込むが賓客として遇される cf.69

月子 富士の裾野の人穴に住む面作師、人の顔を自在に整形する cf.87

伴原之丞、園女 美男美女。伴原之丞が園女(北条内記の妻)を奪ったことで、二人は陶器師に追われる身となる cf.90、358

光明優婆塞(こうみょううばそく) 富士教団の教主、実は庄三郎の父の弟、陶器師を説き伏せられなかったことで教団を捨てるが、乞食の聖者として復活する cf.155-156、176、402

纐纈城主 悪病に犯されており常に仮面と纐纈布をまとっている。纐纈城にて人血によって染められた纐纈布を作る。実は庄三郎の実父。妻が元は弟と恋仲だったことで妻と弟を信じられなくなった男

塚原卜伝 剣豪、ときに常陸の爺。謙信の頼みで五臓丸の作者を探し蔵人と出会う。その後、ともに疫病のはやった甲府へ向かう cf.222

武田軍の有名な、疾如風(はやきことかぜのごとく)、徐如林(しずかなることはやしのごとく)、侵掠如火(おかすことひのごとく)、不動如山(うごかざることやまのごとし)と揮毫したのも快山国師である。