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紀田順一郎
東京の下層社会

ガイド

書誌

author紀田順一郎
publisherちくま学芸文庫
year2000
price950
isbn480-08545-9

目次

1本文
2抄録

履歴

editor唯野
2000.8.12読了
2000.8.16公開
2001.1.27修正
2020.2.25文字化け修正

現代社会を読み解く上でとても意義のある一冊。こういう本を読むと、いかに今日の日本の「豊かさ」がごく最近のことであるか、更にはその「豊かさ」がどれだけの過去の犠牲の上に成り立ってきたものであるかが非常によく分かる。というのも、ここで示されるのは、「近代化という過程がもたらす徹底的な弱者の切り捨て」だからである。そして、それは弱者であればこそ差別意識としても広範な問題を投げかけている。(例えば、娼妓に理解があるように見せかけて全くそうではない男性の姿など。)豊かさに限らないことであるが、それを当り前のものとして享受しがちな今日の我々にとって本書から得るところは極めて多い。解説でも触れられているように、それくらい本書には筆舌に尽くし難い挿話も含まれており、それがためこの読書ノートでもそういった箇所は要約に留めている。平凡社の『日本残酷物語』などでもそうだが、こういう歴史からは忘れ去られがちな人々にこそ、ジャーナリズムの取り上げるべき話題があるというのは現在でも過去でも同じといえる。むしろ、かつては民俗学が担っていたであろうこの種の仕事が、今日ではルポライターによって報告されているというところに、問題の現在性、現代への逆照射とでもいうべきものがあるといえるように思う。

或いは、こういう部分こそが恐らくは日本の教育に最も欠けている部分のひとつといってもよいだろう。このような過去を美化しない、本書の言葉を借りるならば「ノスタルジーとは、いわば望遠鏡を逆さに覗くようなもの」で終わらせない作業はやはり大切だと思う。それだけに大げさないい方ではなく、現代人にとってこの種の本というのは必読書といってよいのではないだろうか。

抄録

22

無論、実在していたスラムが物理的に人々の眼につかないわけがない。おそらくそれは別世界――自分たちの生活にまったく関わりのない世界として認識されていた。-/-

26-27

無灯火が当り前だった当時のスラムでは近親相姦なども日常的だった。さらに日光が入らない建物では結核菌が蔓延し何も知らないままに命を失うことが往々にしてあった。

30

スラムでは「残飯屋」という職業があり、それがスラムの人々の食生活を支えていた。