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本田宗一郎
俺の考え

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書誌

author本田宗一郎
publisher新潮文庫
year1996
price400
isbn10-146111-2

目次

1本文
2抄録

履歴

editor唯野
1996.8.27読了
1998.5 ?公開
2002.10.6修正
2020.2.25文字化け修正

本田宗一郎の本である。非常に納得できる箇所の多い一冊であった。少なからぬ読者が彼の主張を人間の生き様/人生における道標として解釈しようとするのも無理からぬ気がした。彼の死後に起こったブームも、こうやって実際に読んでみるとなるほどとうなずくことのできる感じがした。

と、その一方でこの内容を読者によって逐一鵜呑みにされるのが著者の本意なのだろうか――という気持ちにもさせられた。つまりはこういうことである。

確かに本田宗一郎を戦後の生んだ屈指の技術屋、企業の長としていうことはできるだろう。しかし、(彼が今なお生きていたのであれば必ずいいそうなことだが)その技術屋としての手腕、 企業トップとしての方法論がいつの時代でも通用するとは限らない。なぜならそれは、戦後の混乱期という時代背景も含めた上での彼一流の方法論にほかならなかったからである。それは、いったんトップを辞すると経営に一切口を出さなかった態度にも見て取ることができるが、もちろん頑強な読者の中には「彼ほどの人物であれば、そんな時代背景などに関係なく頭角を現すことができたのではないか」「彼の言説にはそういった時代をも超越した理念が示されているのだ」――といわれる方がおられるかもしれない。しかし重要なのは、まさにその点なのだと私は思うのである。

私自身も、彼ほどの人物であれば多少の世相の違いなどに関係なく、氏がひとかどの人物になっていたであろうことを取り立てて反論しようとは思わない。しかし、現実の本田宗一郎は、まず第一に技術屋としての一生を送っているのである。それゆえ氏の文章においても技術屋としてのモノの見方・筆使いになっている点に注意して欲しいと思う。なぜなら彼は自由奔放に好きなことばかりを書いているように見えて決してそうではないからだ。自分の本分からは一歩も出ていないのである。例えば、ある意見にしても彼自身の思索や事実の反映であり結果でしかないことが、よく読んでみれば分かるだろう。加えて彼自身、その言説が読者によって後生大事に扱われることを少しも期待していない。彼の言説を広義に捉えているのは読者自身なのであって、彼のダイナミックな生き方や物腰からくる説得力も読者が都合のいい方へと解釈している場合が多いように見受けられるからである。

つまり、本田氏の本当の凄さというのは生き様の結果なのではなくて、生き方に対する態度の率直さであり、分のわきまえ方なのだ。氏が本書の中でも度々指摘しているように、戦国期の武将や中国の古典が少しも競争社会のバイブルになり得ないということは、本田宗一郎という男を手本とした場合であっても、同じように当てはまることだからである。ゆえに、彼の言説を何の加工もせずに自分に転用するだけというのは、どういうものなのだろうかと考えるのである。つまり、それは読者自身が、それを自分なりの方法論として咀嚼し自分の意見としてこそ用いられなければ意味を持たないということだからだ。例えば、自分が技術屋(エンジニア)でないのであればその分だけ、自分の職業が異なるのであればその分だけ、そして自分が彼と同時代的でない分だけを割り引いて残りは自分が考え穴埋めをする必要があるということである。安易な転用は著者の本意にかなわないばかりか、本人がそのつもりでも実際は氏の足元にさえたどり着いてはいないことに通じることだからだ。なぜなら、氏の意見でさえ、変化の激しいこの時代においては発せられた瞬間に過去の一意見に過ぎなくなってしまうからである。

しかし、こうやって一読して感じるのは、現実には氏の思いとは裏腹に昨今でも相変わらず版を重ねている、これらビジネスマン向けの本の勢いがとどまるところをしらない事実である。そして没後のブームが起こったときも、それは孫子や三国志の同列としての地位しか与えられていなかったのではないかと思う。これは、いいかえるならば本田宗一郎の扱われ方ひとつを取ってみても、日本企業社会の姿を垣間見ることができるということではないだろうか。ビジネス書に直接の答えがあるわけではないのである。要はそれをいかに能動的に解釈できるか...その繰り返しの手本こそ、我々が彼の本から得るべき最大の点といえるのではないだろうか。

# 今、読むと若気の至りという奴ですね... ^^;;;

抄録

25

自分をおさめるためには信用とカネのふたつが必要。

38

坂を登っていて、いつ下り坂の準備をするか、その見極め。

42

権利と義務の関係において一番大事なのは約束事。