鶴見良行
アジアの歩きかた
書誌
author | 鶴見良行 |
publisher | ちくま文庫 |
year | 1998 |
price | 680+tax |
isbn | 480-03389-0 |
履歴
editor | 唯野 |
2001.1.16 | 読了 |
2001.1.29 | 公開 |
2001.2.16 | 修正 |
2019.9.25 | 再読 |
2020.2.25 | 文字化け修正 |
2020.5.13 | マージ |
『バナナと日本人』などで有名な人の本。本を読むのは初めてだが、全体を通して主張されているのは「歩いて調べる」ということの重要性である。それが著者の方法論から表現にいたる全体を貫いている。それだけに、普通の本では得にくいような見識や視点にあふれた本になっているともいえる。
内容的には著者の文章・講演・授業・書評などを集めたもので、もちろん東南アジア、殊に著者が扱ってきたバナナ、エビ、ナマコなどにまつわる話が多いものの、その雑多な感じが逆にいかにも著者を感じさせる、そういう本になっている。フィールドワークの重要性を説き、宮本常一らに連なる存在としての「歩く学者」の堅苦しくない文章も、もちろん著者のスタイルに負うところが大きく、学者然としていないことに何の疑問も感じさせない辺りが著者の真骨頂だと思う。
本書の中でも指摘されていることであるが、実際問題として我々は東南アジアに関する知識をどれほど持っているのだろうか。確かにいわれてみれば、私もそれほど多くはない...というのが正直なところである。そして、その原因のひとつとして、詳述されているように我々の無意識レベルにおける、東南アジアに対する蔑視的な感情があるということも事実だろう。学際的な知識というものを、そこまで発展させるのだということ。それこそが宮本常一や著者のやってきた「歩く学問」の本質なのだと思う。
こういう本を読むと、ネットが普及したことでむしろアジアを含めた海外は近くなっているはずなのだが、著者のやっていたような意味では近づいたようで逆に遠くなっているのかもしれない、そんな気持ちになった。
# 20年経ったら既読だったことを忘れていました。情けないことです...
抄録
13
――田舎を歩きまわらないと、アジアのことはわからない、と私は考えるようになっています。-/-
16-18
ミンダナオへの移住政策を推進したのは、一九三〇年代のケソン、五〇年代のマグサイサイ、七〇年代のマルコスの三大統領だった。それぞれマニラの政治判断を反映している。スペインからフィリピンを引きついだ米国には、ミンダナオを特殊視する考え方が強かった。そこは、インディアンの住む西部フロンティアと同じように、異教徒の住む特別な土地である。だからフィリピンは独立させても、ここだけは永久植民地として保持しようという各種の提案が米国本土からホワイトハウスに寄せられている。提案者は一般の市民らしく、みずから移住して一旗あげようと目論む人間ではない。それほどに、〝未開〟を同化させようというイデオロギー的願望が、当時の米国社会には強かったのである。だから米国から独立の約束をかちとったケソン大統領は、ミンダナオのフィリピン化を急がねばならなかった。フィリピン化しないと、ミンダナオだけ米国にとりあげられてしまうかもしれないのである。