ニール・スティーヴンスン
スノウ・クラッシュ (全2冊)
ガイド
書誌
author | ニール・スティーヴンスン |
editor | 日暮雅通(訳) |
publisher | ハヤカワ文庫 |
year | 2001 |
price | 740+tax |
isbn | 4-15-011351-3 |
履歴
editor | 唯野 |
2013.1.9 | 読了 |
2013.1.27 | 公開 |
2020.2.25 | 文字化け修正 |
パソコン通信時代に Habitat という現実空間を模した仮想空間コミュニティがあった。今でいう「どうぶつのもり」とか「アメーバピグ」みたいなものの端緒である。本書に登場する「メタヴァース」も同様である(cf.44)。ある意味、久しぶりにSFを読んだのだが、結構おもしろかった。なぜ久しぶりなのかというと『80年代SF傑作選』を読んだときに「もう前衛とか先進という世界で小説をくくるならば、そこではもうSFとかファンタジーというジャンルは意味を持たないな」と感じたからである。
多分、同じことは音楽など他のメディアにもいえることで、科学技術の発達は SF を一般化してしまっとも、もしくはその実現可能性から切り分けられてしまうようになったとも、いえなくない。そういう意味で、本書は本書で「ポスト・サイバーパンク」としてのジャンル分けがされているものの、今の私のとって残るのは、結局のところ「それがおもしろいかどうか」になってしまう。
しかし、本書は十分におもしろい。少なくとも読んでいる間の時間を忘れさせてくれる本だ。また、本書で描かれるハッカーの生態というか流儀も正しい。ヒロがメタヴァースにおいて、デーモンを操ったり、ユーティリティ・プログラムを書く様はハッカーの生態にかなり近い。(これは高村薫の『神の火』を読んで、私がちょっぴり残念だった部分だけに、なおさらそう思う。)ハッカーの頭の中を知りたいのであれば、ジョブズの伝記より、こっちの方がいいだろうね !
主要登場人物
ヒロ・プロタゴニスト | 主人公、フリーランスのハッカーで、剣士で、ピザの配達人 |
Y.T | RadiKSの特急便屋(クーリエ)、でもママには内緒 cf.下352 |
アンクル・エンゾ | コーザノストラ・ピザ株式会社とフランチャイズ国家ノヴァ・シチリア代表 |
Da5id・マイヤー | ブラック・サンのオーナー、かつてヒロたちとメタヴァースを作った cf.131 |
ジャニータ・マーケス | Da5idの元妻、つまりヒロの元同僚 cf.332 |
レイヴン | ハーレーに乗る男、核弾頭を持ち歩く cf.272/下357 |
L・ボブ・ライフ | 光ファイバー企業のオーナー cf.下47-49/下331 |
ラゴス | ボブ・ライフを追っていた男。シュメール文明を研究している |
抄録(上)
44
だから、彼はいま、このユニットにはいない。彼がいるのはコンピュータの作り出した宇宙であり、ゴーグルに描かれた画像とイヤフォンに送りこまれた音声によって出現する世界。専門用語では“メタヴァース”と呼ばれる、想像上の場所だ。-/-
63
もちろん、彼がいま見ているのは、現実の人間ではない。光ファイバー・ケーブルを通って送られてくるスペックにそって、彼のコンピュータが描き出した動画の一部だ。人間の画像は“化身(アヴァター)”と呼ばれるソフトの一部で、この視聴覚体(オーディオビジュアル・ボディ)を使ってメタヴァース内でのコミュニケーションが行われる。-/-
73
“スノウ・クラッシュ”という言葉は、コンピュータ用語だ。モニタの電子銃をコントロールする部分に信号を送るといったごく基本的なレベルのシステム・クラッシュ――バグ――によって、画面じゅうにブリザードが走ったような状態になることを言う。-/-