オクターヴ・オブリ(編)
ナポレオン言行録
ガイド
書誌
author | オクターヴ・オブリ(編) |
editor | 大塚幸男(訳) |
publisher | 岩波文庫 |
year | 1983 |
price | 460 |
isbn | 0-34351-4 |
履歴
editor | 唯野 |
2000.3.1x | 読了 |
2000.3.22 | 公開 |
2002.4.9 | 修正 |
2020.2.25 | 文字化け修正 |
「英雄」という言葉がある。もちろん、その言葉から想像する内容は人それぞれであろうけども、そういう英雄的な人物をひとり挙げよといわれれば、やはりナポレオンは高い支持を集める人物のひとりとなるのだろう。一代にして全ヨーロッパを席巻し一代にして全てを失った男。本書の冒頭には、そういうナポレオンを評して実にうまい言葉が用意されている。いわく「彼の生涯の浮沈の曲線はかくして完全である(p.14)」と。なるほど、確かにナポレオンは全てを手に入れ栄華を誇ったのみならず、全てを失ってもいる。まさしく完全だ。そう捉えるのであれば、ナポレオンこそは英雄として最も完結している人物である。後世の人々がナポレオンに惹かれ続ける理由のひとつをこの点に求めても何ら不思議はない。これは個人的にもとても納得のいく説明だった。
考えてみれば、我々は歴史的人物を取り上げて、それを「英雄」だの「キチガイ」だの「天才」などという。しかしながら、そういう短い言葉で人物を語るのは簡単かもしれないが、その実、逆に我々がそういった言葉を用いることで、どれだけのものを削っているのか想像することは難しい。例えば、ナポレオンは確かに軍事の専門家としては不出世の存在なのかもしれない。しかしながら、彼は常に自らのための勉学を怠ることはなかったし世に名を成してからも生涯を通じて大変な読書家だった。いうまでもなく、戦争だけが彼の人生ではないからである。だとすれば、そういう視点に立って通俗的な「英雄」以外の姿を知ることには意義があるというべきだろう。そして、この本はまさしくそういう趣旨に沿った文章家としてのナポレオンを扱った本である。しかしながら、本書で何よりも驚かされるのはナポレオンのその筆まめなことだ。戦場においてさえ妻には恋文を書き、戦勝すればそれを布告する。手紙はもちろんのこととして、自らの考えを口述することも多く、とにかく量のみならず範囲が広くて精力的だ。加えて彼の場合、彼の言葉がその対話者によって残されたというものも多い。それゆえ、本書はそういう膨大なナポレオンの言葉を編纂した本という色合いも強いものになっている。
抄録
21
ナポレオンはパスカルやルソーに近い思想の持ち主で同じように詩人だが、ナポレオンは彼らのような精神の詩人ではなく行動の詩人であった。
36
ナポレオンは早くから新聞の重要性に着目していた。フランス革命も新聞なくしては起きなかったであろうし、だからこそナポレオンは自ら筆を取って論説を書き続けた。
42
実はナポレオンがその文才を最も発揮するのはセント・ヘレナへ流されてからの 6 年間だった。