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ミヒャエル・エンデ
エンデ全集4-5
はてしない物語 (全2冊)

ガイド

書誌

authorミヒャエル・エンデ
editor上田真而子,佐藤真理子(訳)
publisher岩波書店
year1997
price各\2,400
isbn0-092044-8,45-6

履歴

editor唯野
2000.10.24読了
2000.10.29公開
2002.11.24修正
2020.2.25文字化け修正

エンデの代表作ともいえる傑作長編。私も特別に大好きな作品である。それにしても全編を通して再読したのは久しぶりなのだが、相変わらず抜群におもしろいのは本当にすごいことだ。私も以前は「本の再読など時間の無駄なので、次から次へと別の本を読むべきだ」などと思っていたが、最近は考えが変わった。「本当におもしろい本というものはいくらでも再読に耐え得る」ことが分かってきたからである。

思えばこの本でも、初めて読んだときには「虚無」の意味であるとか「ファンタージエンで願いをかなえるごとに現実世界での記憶を失う」ことが持つ寓意はよく分からなかった。しかし、それでも当時から強く印象に残っている箇所がある。それは物語の冒頭の方に出てくる一節(上巻 p.14)で、

耳を真っ赤にし髪をくしゃくしゃにして、日の暮れるまで本の上にかがみこみ、まわりの世界を忘れ、空腹も寒さも感じないで読みに読む、そんな経験のない者――

父とか母とか、それともだれか世話ずきの人に、あすは朝が早いんだからもう寝なくてはという親切な理由で電灯を消されてしまい、ふとんの中で懐中電灯の明りをたよりにひそかに読みふける、そんな経験をしたことのない者――

すばらしい物語も終わりになり、数々の冒険をともにした人物たち、好きになったり尊敬したり、その人のために心配をしたり祈ったりした人物たち、かれらとともにすごせない人生など空虚で無意味に思える人物たちと別れなくてはならなくなり、人前であれ陰でであれ、さめざめと苦い涙を流す――

そんな経験の一つもない者には、-/-

という本と人との接点を述べた箇所だ。今でもうなずくことしきりの文面であるが、しかし本当の意味でこういう経験をできるのは、やはり子どもでなければできないように今では思う。もちろん、今でも夢中になって読む本にめぐり合わないわけではないし、さまざまな意味においてすばらしい書物は多い。しかし、あの頃のような本と接するだけでわくわくした気持ちになれたとか、何かを読むだけで満足できた――などという意味での純粋さは今ではない。どうしても過去に読んだ本との比較であるとか、実利的な側面を考えてしまうからだ。むろん、それだって読書のうちであり、何も悪くなどないのだが、こういう本を読むとどうしてもそんなことが頭をよぎってしまう。それとも読み終わった後にすぐ現実へ戻れてしまうのが、大人というものなのだろうか...

本書では二色刷りの本文といい、上述のすばらしい惹句といい、物語の中の書籍が自分の手にしている本と同じ装丁になっているなど、とても趣向に富んでいる。惜しむらくは、全集版では(箱付のためか)単行本にはある表紙の二匹の蛇がお互いの尾を噛んでいるアウリンの印がない。これを期待していた読者は多かったように私は思うのだが... 唯一、この点も単行本同様にして欲しかった。

主要登場人物

バスチアン・バルタザール・ブックス 主人公
カール・コンラート・コレアンダー 古本屋の主人
幼ごころの君 ファンタージエンを統べる女王
エルフェンバイン(象牙)塔 ファンタージエンの中心にある宮殿
迷路苑 エルフェンバイン塔の周りにある花園
カイロン ファンタージエンで最も名高い医師
アウリン 幼ごころの君の代理を示すメダル cf.上 57
アトレーユ アウリンを託された若者 彼の馬がアルタクス
モーラ 憂いの沼に住む太古の媼、とても長生きしている亀 cf.上 97
ウユララ 南のお告げ所にいる声だけの答
フッフール 幸いの竜 アトレーユと行動を共にする
エンギウック 夫婦隠者のおじいさんの方 ウユララの研究をしている
ウーグル 夫婦隠者のおばあさんの方 医学に通じている
外国(とつくに) ファンタージエンの外にある人間世界
クリスタ アンナおばさんの娘 cf.下 135-136
グモルク アトレーユを付け狙う人狼 cf.上 111,233
モンデンキント 月の子 バスチアンが幼ごころの君に付けた名前
さすらい山の古老 幼ごころの君と一対のはてしない物語の書き手 cf.上 287
森の夜ペレリン/色の砂漠ゴアプ バスチアンが作り出した昼夜で表裏を成す世界
グラオーグラマーン ゴアプの主のライオン
シカンダ バスチアンがグラオーグラマーンから得た剣 但し力ずくで使うと...
千の扉の寺 確かな望みに対してだけ出口を示す扉の迷宮
ヒクリオン(強力)/ヒスバルト(迅速)/ヒドルン(粘り) バスチアンの従者になる騎士
ヒンレック 勇士 バスチアンと腕を競う 姫のために冒険をする
オグラマール姫 勇士ヒンレックが思いを寄せる娘 竜にさらわれる
銀翁ケルコバート 銀の都、アマルガントを治める最年長者
アル・ツァヒール 百年分の光を蓄える石 cf.下 112,239
イハ ろば バスチアンの乗馬となる cf.下 221
イルアン 青い魔鬼(ジン) いつのまにかバスチアンの取り巻きになる
サイーデ 目のある手(魔の城ホローク)に住む女魔術師 cf.下 206,315(最期)
ゲマルの帯 サイーデがバスチアンに送った姿を消す力を持った帯
星僧院ギーガム 知の僧たちの僧院 以下の 3 人の沈思黙考師が院長
ウシュトゥー(予感の母)/シルクリー(観照の父)/イージプー(怜悧の息子)
アーガックス 元帝王たちの都を管理している猿
イスカールナリ 籠の町(イスカール)の住人のこと 彼らには個人というものがない
アイゥオーラおばさま 霧の海(スカイダン)の向こうにある変わる家の主人
ヨル 光の中でのみ盲目の抗夫 ミンロウド抗という絵の採掘師
命の水の泉 ファンタージエンの最も秘められた場所 二匹の蛇が出入口となる

抄録

上 22

「本って閉じているとき、中で何が起っているのだろうな ?」バスチアンはふとつぶやいた。「そりゃ、紙の上に文字が印刷してあるだけだけど、――きっと何かがそこで起っているはずだ。だって開いたとたん、一つの話がすっかりそこにあるのだもの。ぼくのまだ知らない人びとがそこにいる。ありとあらゆる冒険や活躍や闘いがそこにある。――海の嵐にであったり、知らない国や町にきたり。みんな、どうやってかわからないけど、本の中に入っているんだ。読まなくちゃ、そういうことをいっしょにやれないわけだけど。それはわかっている。だけど、それがみんな最初から中に入っているんだ。どうやって入っているのかなあ ?」

上 39

なぜなら、想像すること、それがバスチアンの得意なことだった。おそらく、たった一つの得意なことだった。-/-

上 47 ほか

けれどもこれは別の物語、いつかまた、別のときにはなすことにしよう。

この物語のとても好きな文句で、つまりは読者が「こんなことがあったのではないか」とそれこそ自由にその先の部分を想像できる場面でもある。本書には随所にこの言い回しが登場する。