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種村季弘(編)
ドイツ幻想小説傑作集

ガイド

書誌

author種村季弘(編)
publisher白水uブックス
year1985
price880
isbn4-560-07072-5

目次

1本文
2抄録

履歴

editor唯野
2009.12.29読了
2010.4.19公開
2010.4.21誤字修正
2020.2.25文字化け修正

ドイツの幻想小説・怪奇小説というのは私も好きなジャンルで、いろいろ読んできたわけであるが、本書はなかなか取り上げられにくい日本ではあまり著名でない人の作品を集めた一冊となっている。おもしろいと思ったのは抄録にも引用した作品のあたりだが、それ以外の佳作もいくつかあった。解説(p260)にもあるように、

電灯の時代は、光と闇が伯仲していたあの長大な歴史に終止符を打った。「手を伸ばしてスウィッチひねりさえすれば、たちまち部屋の四隅まであまねく光の洪水となって幻像は雲散霧消するのであれば、幽霊物語の可能性はまさしく限界に来てしまった」(E・ウィルソン)のである。

というのは全く正しい。これこそが怪奇小説の現代における必要性までなくしてしまっている元凶なのだろうけども「闇」だけが人間の恐怖をあおるものではない以上、「恐怖」そのものも現在では拡散してしまっているのがより正解なんだろうなと思う。

抄録

53/58

-/-「思考はしないのです !」――彼は言った――「それは首尾よく処分しました !」-/-

-/-「そうなのですよ ! 今日の揺れ動いてやまぬ時代状況ゆえに、大多数の人間の信頼の置けなさ、懐疑癖、天職選択のむずかしさ、あらゆる分野における遅疑と逡巡のゆえに、自分が何者であるかを知らず、自分がいかなる素質を持っているのかを知らず、どんな気質に自分が傾いているかも、素質と気質とが未来永劫にわたって相違なるものとはならぬことをも知らぬ人間を持つ必要が、結局のところは生じて来ざるを得なかったのです。私どもは私どもの人間に、最高のお手本に倣って作り上げた精神的肉体的美点のコレクションを生まれたときに供与してやり、それが状況がどう変わろうと彼らに血肉化してしまっているのです。ここだけの話ですが――請け合って――私どもの人工産出物たる人間のほうが、私には昔ながらの誉れある人間種族よりもはるかに好ましいのです !」――「でも自由意志というものがある !」私は応じた。――「そいつもご多分に洩れず脳味噌に巣食った妄想にすぎませんな !」-/-

オルカス・パニッツァ「人間工場」より。

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