ホーム > 読んだ

本田靖春
警察回り

ガイド

書誌

author本田靖春
publisher新潮文庫
year1989
price440
isbn10-116711-7

目次

1本文
2抄録

履歴

editor唯野
2000.4.19読了
2000.4.23公開
2000.4.27修正
2020.2.25文字化け修正

「バアさんが死んだ。」という一文で始まる本書は、戦後の――ジャーナリズムといえば新聞であり、新聞といえば社会面であった時代、もっといえば新聞記者がまだブンヤと呼ばれていた時代――を当時の警察回りの記者の溜まり場であったバー「素娥」のマダムの人生に重ねながら追ったひとつの同時代的証言となっている。加えて、著者と天声人語で名声を博した深代淳郎とバアさんをめぐる交友など、興味の尽きない側面も持った一冊である。

しかしながら、本書が投げかけているものはそれだけではないだろう。というのも、著者の世代以上の日本人のひとりひとりにとって「いつ戦後が終わったのか」は大きな命題のひとつだと思うが、著者は本書によって自分における「戦後」をも総括しているといえるからである。なぜなら、新聞がかつての地位を失って姿を変えていく中で、そこに著者自身の青春と戦後を見ることもできるからだ。つまり、優れたノンフィクションがノンフィクションとして扱う対象のみならず、自らの内面への問いとしても重ね合わさることを実感できるのである。

抄録

25

バアさんが上野警察署の裏手でトリスバー「素娥」を開いたのは、昭和三十二年十一月のことである。

カギ型のカウンターにスツールが七つ、八つ。そのほかに四人掛けのテーブルが一卓あって、奥に申し訳ばかりのトイレがついているという小さな店であった。

31/179-181/252/258-259/269

深代淳郎について。彼は朝日で横浜支局員、東京本社社会部員、ロンドン・ニューヨーク特派員、東京本社社会部次長などを経て S43 に論説委員となった。S46 にヨーロッパ総局長としてロンドンへ渡り S48 年に戻ると 2 月より天声人語を担当、S50 年に倒れるまで執筆を続けた。そして、この年の 12 月に 46 歳の若さで亡くなった。