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山口二郎
民主主義は終わるのか
――瀬戸際に立つ日本

ガイド

戦後民主主義の経緯と立て直しのために必要なこと

書誌

author山口二郎
publisher岩波新書
year2019
price840+tax
isbn978-4-00-431800-2

目次

1本文
2抄録

履歴

editor唯野
2020.7.8読了
2020.7.12公開
2020.7.13修正
2020.7.24修正

第二次安倍政権下での民主主義の危機について、戦後民主主義(55年体制)の経緯も含めて検証し、回復のための提言までを取り上げた本。著者はいうまでもなく安倍政権に対して批判的であるが、論旨ははっきりしており、特にまとめが適切かつ秀逸だと思う。正直なところ提言そのものに目新しさは感じられないが、それだけ普遍的な内容ということもできる。

本書では近年の政治傾向を、国力低下という現実の中で民主党政権が期待外れであったことからの現状維持志向――逆にいえば安倍政権の政策が必ずしも支持されているわけではないこと(cf. p202)――や、90年代以降の意思決定スピードを上げるために行われた行政改革が逆に行政主導による悪弊(役人の忖度 etc)を生んだこと、国政選挙での小選挙区制導入による野党の弱体化、戦争を知る世代が退場した結果としての右傾化などに求めているが、私もその主張は正しいと思う。

個人的には行政主導は良いとしても、要はそれに対するチェック機能を設けなかったのが何より良くないと感じる。検証がされないから何事もやりっ放しとなり問題が生じても責任を問われない。それゆえに、それがさらに繰り返され、状況がますます悪い方向で深化していくことになる。まあ、これに関しては既に「責任の所在のない国」に書いたので改めていわないが、責任を痛感しても何ら引責しない首相は実際には全く責任など感じていないのと同じであり、選挙で自治体首長がお金を受け取ったり検察トップが賭け麻雀をしても不起訴で済むのなら、そういうのは法治国家ではない――今や我が国はそういう状況にある。

とまあ、愚痴って問題が解決するわけではないので、現実問題としては政権交代可能な野党の結集が必要だろう。これは著者も触れているように以下のようなイメージである。

勢力の量的側面に関して、立憲民主党が野党連合の主軸に成長するためには、革新、リベラルの市民だけではなく、安倍政治に不安・不満を持つ穏健保守層、かつての自民党流の戦後民主主義を支持していた人々の支持を集めることが必要となる。その意味で、枝野幸男代表が自らを保守と規定することは的確な路線である。

そのことは、政策の質における論争の枠組みの構築にもつながる。-/-これに対して、野党は戦後民主主義を保守するという旗印を明確にすべきである。ここで言う戦後民主主義とは、特に一九六〇年代以降自民党と野党の相互作用の結果定着した路線である。第一に、日米安保を基調としつつ、憲法の枠内での適度な自衛力を持ち、アジア諸国との友好関係を保持する。第二に、市場経済を基調としつつ、ある程度の公平な分配を維持する。かつて自民党の穏健派が追及したこのような路線を掲げる勢力が、現在の自民党に対抗することで、政治の選択肢が生まれる。

かつて自民党内で起こった右派と穏健派の権力交代を政党間で起こすというのが、今後ありうる政権交代のイメージである。(p91)

しかしながら、直近の東京都知事選でもれいわ新選組が公示直前に独自候補を立てるなど、負けるべくして負ける選挙をやっている。となると、それとは別に必要なのは、これも著者がいう通り政治に関する広範な議論の喚起であろう。結局のところ、それが民主主義的精神の維持と広がりにおいて基礎となるのは間違いない。例えば、あらゆる右派の弱点ともいえる、以下のような問いをもっと発していくべきだと思う。

-/-しかし、自民党の右派、改憲派は押し付け憲法を批判しながら、憲法を押し付けたアメリカに抗議することはなかった。アジア太平洋戦争の正統性の主張はもっぱら国内と被害者たるアジア諸国に向けられ、東京裁判で日本の戦争犯罪人を裁くことを主導したアメリカに対しては向けられなかった。-/-このように、国内やアジア向けには敗戦を否認しつつ、アメリカの戦後処理の中でアメリカの「手下(junior partner)」として生きて行く路線を自民党政権は選んだ。押し付け憲法批判は決して押し付けの張本人たるアメリカに向くことはなく、もっぱら民主化の受益者たる国民に向けられた。この点をとらえて、政治学者の白井聡は永続敗戦体制と名付けた。敗戦を否認し、憲法改正を志向しようとすればするほど、アメリカに敗北してできた隷従構造から抜け出せなくなるというわけである。(p181)

抄録

iii-iv

このように、欧米の主要国の政治は、いずれも大きく動揺している。従来政治を担ってきた政党が急速に支持を失い、ポピュリスト政党を中心とする新興勢力が台頭しているものの、安定した統治を確立できない状態が続いている。

それでは、日本の場合はどうか。二〇一二年末に発足した第二次安倍政権は、国政選挙で勝利を続け、高い支持率を保ちながら、安定しているように見える。しかし、そのもとでは、毎年のように、従来であれば内閣が崩壊するような大きなスキャンダルが起こっている。-/-こうした強引さや開き直りが何となく許容されるのが安倍政治の特徴である。-/-

iv

今までの日本政治の常識を当てはめれば、これらの政治腐敗や不正あるいは強権的立法の一つでもあれば選挙で政府与党は敗北を強いられたはずである。そして、政権交代に至らないまでも、自民党内で権力の交代が起きたはずである。なぜそうならないのか。-/-

vi

しかし、さらに疑問は残る。なぜ人々は不正や腐敗に対して慣れてしまい、怒らなくなったのか。-/-