ホーム > 読んだ

松本大洋
GOGOモンスター

ガイド

書誌

author松本大洋
publisher小学館
year2000
price2,500+tax
isbn9-179341-X

目次

1本文

履歴

editor唯野
2001.3.26読了
2001.5.3公開
2002.11.28修正
2020.2.25文字化け修正

松本大洋の書き下ろし作品。方々で話題になった本だが、私も現時点で松本大洋の本を一冊選べといわれれば、この本になるだろう。本来なら、こういう本の読書ノートは何度も読み返して自分の中での感じたことを寝かせてから記した方がいいのだが、『ナウシカ』のときのようにいつまでも先延ばしにして挙句は田舎送りというような由々しき先例もあるので、とにかく書くことにする。

物語の主人公になるのは、普通の人には見えないものを見ることのできる立花雪という少年で、これに安部公房の『箱男』を髣髴させる IQ、ユキの友人であるマコト、用務員のガンツさんといった面々が周りを彩る感じになっている。ついでにいうと IQ にとって大切な兎の名前もユキという。既にそういう辺りからして作者の意図が働いているなという感じである。

p.394物語の方は書き下ろしというだけあって、表現の反復など構成全体が計算されてるな...という印象が強かった。これは決して悪い意味ではなくて、そもそも私としてはこういう計算され尽くした、それでいて読者を突き放す部分のある物語は大好きである。また、学校が舞台という設定は、「そういえば、そんなことがあった」「そういう考え方をしたことがあった」というような場面に遭遇することも多く、それが後半部分でのユキの経験する世界に対して、うまい対比を見せているなと思う。考えてみれば、学校の画一化は、一方で学校という共通基盤を読み手に対しては提供しているわけで、恐らく、この本の読者が互いに同じ思いを馳せることはないのだろうが、それゆえにこそ接点となりえるのは皮肉にも学校という舞台そのものになるのだろう。

その上で「主題は ?」と聞かれれば「少年にとっての喪失と獲得」が私の答えになる。とはいっても、もとより一言でまとめられるような内容ではないから、何を喪失して何を獲得したのか...などと書くつもりはないし、書くこともできない。しかし、この手の子どもに見える何か――という観点は嫌でも大人(つまりは私自身)との対比という問いを投げかけるし、また巷でいう若者を単純化して整理することで安心している事象に対する反論――という面のあることも否定できないはずである。

それゆえ、高所的にいえば後者の見方を前面に出せば済むのかもしれないが、そういう点に物語の中では明言していないところが、この本の奥深さということになるだろう。うまくはいえないのだが、この本には「即効性はないかもしれないが置き忘れることのできない」イメージがある。それはどういうことかと考えると「結局はユキも IQ もどういう経過やかたちであれ、自分の道しるべは自分で探し出してるじゃないか」というところに私の場合、行き着きそうに思う。だから、この場合、ユキや IQ への距離感覚、思索を刺激する諸々の要因そのものは何ら重要ではないし本質でもなくなる。なぜなら、そこでは物語の中での関係よりも自分自身との関係に対する問いかけの方が意味をなしてくるからだ。つまり、何の答えを明示しているわけでもないのに、それが逆に何かを考えるきっかけとして働いているということである。(しかも学校を舞台にしながらだ。)そこが、この本で最もすごいところなのではないかと思う。

また、ラストの自転車のシーンなど「非常に松本大洋らしい」場面も登場し、それでなくても、ユキの遭遇するもうひとつの世界の侵食の仕方にははっとさせられる。その上で、それら全てが自分の見立ての中で等価に主張してくる。この感じは読み返すほどに強く感じることだ。必ずしも取っ付きやすい本だとは思わないが、『AKIRA』や『ナウシカ』と一緒で、一気にまとめて読んで初めて感じられるような部分というのが、この本にもあるように思う。

# どこにでもある本というわけでもなさそうなので、見つけたら即買いしましょう :-)