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魯迅
野草

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書誌

author魯迅
editor竹内好(訳)
publisher岩波文庫
year1955
price310
isbn0-320251-1

目次

1本文
2抄録

履歴

editor唯野
2000.7.16読了
2000.7.17公開
2000.12.7修正
2020.2.25文字化け修正

魯迅文学の魅力が凝縮された作品集。もちろん訳者は竹内好である。魯迅といえば『阿Q世伝・狂人日記』などの方が著名かもしれないが、個人的にはこの作品の方が取っ付きやすく、かつおもしろかった。本書に含まれるのは散文・詩など形式にとらわれない短編の数々だが、いずれの作品にも読者を引き付けずにはおけない一節が登場するという点だけ見ても完成度は推して知るべしであろう。あまり厚くもない本だし、訳者のいう通り、魯迅の入門書としてもおすすめできる一冊だと思った。また、岩波文庫には他にも『魯迅評論集』があり、こちらも好著である。それだけに岩波文庫のこの 3 冊はまとめて読んだ方がいいといえるだろう。ちなみに個人的には「犬の反駁」(p.61-62)が最もおもしろかった。ほかでは「賢人と愚者と奴隷」などがよかった。

抄録

7

沈黙しているとき私は充実を覚える。口を開こうとするとたちまち空虚を感じる。

過ぎ去った生命はもう死滅した。私はこの死滅を喜ぶ。それによって、かつてそれが生存したことがわかるから。死滅した生命はもう腐朽した。私はこの腐朽を喜ぶ。それによって、今なおそれが空虚でないことがわかるから。

15

おれはただの影だ。君に別れて暗黒に沈もう。だが暗黒がおれをのみ込むかもしれぬし、光明がおれを消し去るかもしれない。

だがおれは明暗の境をさまようのがいやだ。暗黒に沈むほうがよい。

28

神はかれ(キリストのこと:唯野注)を見棄てた。かれはついに「人の子」に過ぎなかった。だがイスラエル人は「人の子」さえも釘づけた。

「人の子」を釘づけた人々のからだは、「神の子」を釘づけたものよりも血なまぐさく汚れていた。