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福田恆存
人間、この劇的なるもの

ガイド

書誌

author福田恆存
publisher中公文庫
year1975
price220
isbn1195-611107-4622

目次

1本文
2抄録

履歴

editor唯野
?.6.8読了
2016.10.5公開
2020.2.25文字化け修正

私が福田恒存に関心を持ったきっかけは、ここで読書ノートとしても紹介しているロレンスの『現代人は愛しうるか』の訳者としてである。そのため著者の名前は知っていても、そういうきっかけがなければ著書を読むこともなかったのではないかと思う。とはいえ予期できていたことではあるが、主張されているのは『現代人は愛しうるか』で自身が述べていたことと近い、私小説や自由への批判が主である。それを劇作家としての自身にとっての演劇にも絡めながら論じている。

私自身は本書で批判されているような自由論を欠陥があったとしても、個人に選択を許容できる社会の方がメリットが大きいので擁護すべきだと考えるが、こうやって読んで比べてみると戦後の保守思想家はまだかわいい。昨今の過激すぎる人たちというのは、こういう先哲から何を学んでいるのだろうか。

抄録

7

死は、最初から、いや、それがやってくるずっとまえから、私たちはそれにたいして用意することができる。出生においてはたんなる物体にすぎず、その端役さへ務められなかった私たちも、死にさいしては、瞬間、主役になりうるのである。芝居がかった人間なら、深刻な、あるいは軽妙なせりふの一つも吐くことができよう。-/-

10/11 cf.13

一口にいえば、現実はままならぬということだ。私たちは私たちの生活のあるじたりえない。現実の生活では、主役を演じることができぬ。いや、誰もが主役を欲しているとはかぎらぬし、誰もがその能力に恵まれているともかぎらぬ。生きる喜びとは主役を演じることを意味しはしない。端役でも、それが役であればいい、なにかの役割を演じること、それが、この現実の人生では許されないのだ。